針園(はりぞの)/ナースロボ_タイプt
ポエトリーリーディング3作目です。
2024/6/15頃から各種音楽配信サービスで聞けるようになります。
音楽、動画
包丁ナイフカッターズ( )
ニコニコ
詩
Hamming Egg(KUMAKURA MIHAI)様( )
イラスト
瑞井ろろ様( )
声
ナースロボ_タイプt
病院の待合室の床で、一本の針が落ちているのを見つけた
看護師に渡そうとすると、
それはお薬ですよと言われ、
受け取ってもらえなかった
医師は相変わらず尾を振って、
パソコンの画面をペロペロと舐める犬だったので、
私は窓の奥の公園の、
二人の子供の遊戯を眺めていた
悲しみを吸って
水脹れ、膜を張る夕暮れ
鰯雲が杞憂を運ぶ
農夫は仰ぐ、暇もなく、鍬を振る
それから、
針はどんどん小さくなって、
私のポケットの奥に逃げ隠れた
家に帰る前に、
戦争反対のデモ隊に20分ほど参加して、
コンビニでアイスクリームを二つ買った
家に帰る前に、
一方のアイスは溶けてしまったので、
線路上にそっと捨てた
嘆きを食って
糖尿病になった熊の星
鏡合わせに日常をみつめて
転轍機の笑い声に泣き眠る人
家に着き、ふと、
私はその針を種だと思った
ので、ガーデニングを始める良い機会になったというわけだ
針を植えて、
一晩待った
朝起きると、
悪夢が、
ヒタヒタにバケツに注がれていた
二階の寝室から、
庭に向けてその水を放った
繰り返しても、
針は一向に芽吹かなかった
コーヒー色に湿る土だけが、
弱音を吐く陽射しにキラついて、
私だけが健康体になって、馬鹿にされている気分だ
あの時のデモ隊はもうとっくに滅んでいた
ある日一階に降りて、庭先へ、
土を掘り起こし針を探した
ベトベトするツチだ、ああ、ベトベト。
針は無い。
しかしなぜか、花壇の外で、一本の小さな針が地面から生えていた
それは抜けない。
見渡すと、その針はそこらに顔を出していた
抜けない。
すべて抜けない。
どうやらそれは、根っこらしい。
幹も枝も葉も花もつけずに、
針は根っこになってしまって……
スクスク育ったというわけだ。
病床に臥す父の掠れ声に、
ハッとして、
私は急いで食事の準備に家に入る。
もらったはずの薬が見当たらない
また明日、病院に行かなければ。
それにしてもあの針は、
あの針の根は、
この家の中にまで、
床下にまで、
父の部屋まで、
伸びて来てしまうのだろうか。
父の額の汗を拭き取り、
鍋の火加減を見ては考える。
明日は、
病院の帰りに除草剤を買いに行こう
いや、除針剤じゃなければいけないだろうか
具材を